心のSOS

子育て疲れ”解消のヒント 精神科医・宮田 雄吾

vol.09 「負けてたまるか」と思ったら負け

 「子どもに大人が負けちゃいけない。父親らしく威厳をもって子どもに接しなさい。」子育てセミナーの講師の言葉にうなずく創太パパ。さっそく、いうことを聞かない子どもを厳しい表情でしかりつけます。「テレビはごはんを食べ終わってからだ。おかずを残さず食べなさい。」

 でも子どもはテレビに夢中。ちっともいうことを聞きません。ますます腹が立って「なんだ、その態度は!大人をなめるなよ!」怒鳴りつける創太パパの頭の中は「子どもに負けちゃいけない」という思いでいっぱいです。

 しかし、冷静に考えてみましょう。大人と子どもを比べた場合、大人側に負ける要素はありますか?からだは大人が大きい。お金も大人が持ってる。経験も大人が上。法律上でも大人の権利が圧倒的に優勢。子どもが勝つのは記憶力とお肌のハリくらいなもの。ですから大人が手加減しなければ、大人にとって「子どもに負けない」なんて超カンタンなのです。

 そして子どもも、本気の大人には勝てないことを、それはそれはよく知ってます。「子どもになめられちゃいけない」と妙に気合いを入れている大人は、子どもから見れば、こう見えます。

 「『負けてたまるか』なんてわざわざいうところをみると、この大人はもしかしたら子どもに負けちゃうんじゃないかと、内心ビクビクしている自信がない大人なんじゃないかな。情けないなあ。あんな大人になりたくない。だからこの大人のいうことは、あんまり聞かないようにしよう」

 そうです。"なめられまいとする大人"こそが"なめられる大人"なのです。

 もちろん、大人が子どもの機嫌をとることばかり考えて、社会性が獲得できていない子どもに対して、必要な社会のルールを教える作業、すなわちしつけができない状況になってはいけません。しかし子どもが精いっぱい、とてもか弱いその力で子どもなりの主張をするときに、強い大人は最低限必要なことをしっかり伝えたら、あとはそんなに勝ちすぎず、子どもに少し花をもたせるくらいのつもりで手加減しましょう。そこに子どもは大人の余裕を感じ、確かな信頼が芽生えるのです。

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