心が軽くなる子育てご相談 精神科医・宮田 雄吾
vol.09 思春期の男の子との接し方は?
「中学2年の息子は、学校のことなど何も話してくれません。話しかけると『ウザイ』のひと言。食後の『ごちそうさま』の言葉もありません。この時期は仕方ないと思いますが、先日『うるせえババア』といわれたときは『親に向かって何いうの』と怒りました。ただ放っておくのも不安です。どう接すればよいのでしょうか」
「助けを求めてきたときだけ手伝う」のスタンスで
思春期の男の子は、ある作業に没頭します。その作業はとてもとても困難で、時間もかかります。しかし、“男の子”が“大人の男”にはるためには決して避けては通れない作業。それは“アイデンティティー(自己同一性)を確立する”という作業です。いい換えると、「自分はどんな大人として、この社会のなかを生きていくか決める」ということ。
どんな仕事をするのか、どこに住むのか、誰を友とするのか、結婚するのか、子どもの親となるのか、どんな価値観を大切にして生きるのか……。
決めなければならない課題は、まだまだ非力な男の子にとって、どこから手をつければいいのかわからないほど膨大。まったく途方にくれてしまうほどです。でも、お母さんには頼りたくない。自力でやりたい。
途方にくれつつも、男の子は孤独な作業に取り掛かります。誰かのまねをしたり、いいと聞いたことをあれこれ試してみたり。
自分の力で生きていけるという自信もまだないし、自分の生き方が社会に受け入れられるかどうかもわからない……。そんな男の子は、しばしば不機嫌になります。頭の中は自分のことでいっぱいいっぱいで、お母さんの気持ちになど、いちいち気を使う余裕はありません。
そんなこととはつゆ知らず、話しかけてくるお母さんの能天気さに男の子は腹を立てます。「ウザイ!うるせえババア!」
別にお母さんに恨みはないし、バカにしているわけでもない。ただただ余裕がないだけなのです。「ごちそうさま」のひと言すらいえないほどに。
この時期の男の子への対応は、「自力でやろうとしているときはやらせておき、助けを求めてきたときだけ手伝う」で十分。助けなんていらないと突っ張っているときは突っ張らせておけばいいのです。「まあ頑張れや、少年!」と内心エールを送りつつ。
親が知らない秘密の世界のなかで、男の子は次第に力を蓄えていきます。ですからもし、「お母さん、こないだ彼女とキスしたよ!」なんて打ち明けてきたら、それはそれは心配してください。キスをしたことにではなく、それをお母さんに語ったことに!
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