心が軽くなる子育てご相談 精神科医・宮田 雄吾
vol.07 「ママ嫌い」といわれてショック!
「5歳の一人娘は夫(パパ)が大好きで、夫に始終べったりと張り付いています。日常一緒にいる私はどうしても小言が多くなるので、あまりしからない夫のほうになつくのはわかります。でも、先日、少しきつくしかったとき、娘に『ママは嫌い!』といわれ、ショックを受けてしまいました。夫と娘の仲のいい姿を見ていると、最近は孤独感さえ感じます」
「嫌い」といえることこそ深い信頼の証し
診察をしていると、いろんな患者さんに出会います。友だちが大学に受かったと聞いて「おめでとう」といったけど、「本当は、うらやましくて仕方なかった」という男の子。同僚が結婚退職すると聞いて「おめでとう」といったけど「本当は、よりにもよってこの忙しいときに辞めなくてもいいじゃない、フン!と思った」という若いOL。
彼らはいいます。「自分の本当の気持ちはなんて醜いんだろう」
そんな彼らは、ひとつだけとらえ違いをしています。それは本当の気持ちというもののとらえ違い。彼らは、相手を嫌な気持ちにしてしまうからと、言葉にせず心のなかに納めた裏の気持ちだけを本当の気持ちだと考えています。
でも、考えてみてください。大学に受かった友だちや結婚が決まった同僚を祝福し、実際に「おめでとう」と伝えた表の気持ちは果たしてうそですか?
そう、裏の気持ちも表の気持ちも、実は両方とも本当の気持ちなのです。
人間は、一つのことに対して、一つの感情しか持たないことはまれです。通常二つ以上の気持ちを抱きます。大切なのは、通常の社会生活において表現することが許されるのは、表の気持ちだけだということ。
ただし、表の気持ちだけを表現しつづけていると、心のバランスが崩れます。そこで、裏の気持ちもたまには表現してバランスをとらなければなりません。
しかし、裏の気持ちをうかつに表現してしまうと、他人を傷つけたり、自分に跳ね返ったりしますから、表現する相手は慎重に選ぶ必要があります。つまり、自分を見捨てることもなければ、壊れることもなさそうな深い信頼で結ばれた相手を選ばなければならないのです。
子どもからみて、お母さんが自分を見捨てそう、何かいうと壊れそうと感じられた場合、決して「ママは嫌い!」とはいえません。今回「ママは嫌い!」と子どもが平気でいえたこと、これこそが子どものお母さんへの深い信頼の証しなのです。
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